個人山行紀行文 2008.6.01 御神楽岳・1387m 会越の谷川岳・蝉が平コース
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   神々への奉納神楽が聞こえる山「御神楽岳」

 

御神楽岳(みかぐらだけ 1,386.5m)は新潟県と福島県の県境付近にそそり立つ岩山である。
人呼んで「会越の谷川岳」と言わしめるように、凄まじい岩峰群を抱えている。

栄太郎新道から仰ぎ見る山伏尾根や御神楽沢源頭部の岩壁(水晶尾根、つばくろ尾根)はとて
1,300m級の山とは思えないほどの圧倒する迫力を見せている。


 御神楽岳への登山ルートは
蝉ガ平コース、室谷コース、それに福島県金山町側の霧来沢コース
3つがある。

一般的には、その難易度から室谷コースと霧
来沢コースが多く登られているようだが、今
回はあえて峨峨と聳える岩峰を見ながらの難
コースの蝉ガ平コースピストンを試みた。

勿論、このコースは初めてではないが、緊張と
スリルを味わい、加えて体力を消耗したコース
の為断片的な記憶しか残っていなかった。

蝉ガ平の林道終点に車を置き、登山者カード
に記入してふと見るとそこにお神酒が置いてあ
った。そしてその少し先には山道の上を横切っ
てしめ縄が張ってあった。

さすがに信仰の山だけあるなと思って歩き始めたが、待てよ、今日は6月の第一日曜日、山開
きの日ではないかと気が付いた。知らずに来たにも関わらず運が付いている。少し戻って、猪
口一杯のお神酒をご相伴に預った。地元のお酒“麒麟山”であった。おいしかった。


御神楽岳は伝説に彩られた山でもある。真偽の程は分からな
いが、
祟神10年(前88年)東北地方の巡撫の旅に出た将軍、
大彦命父子がこの地で無事再開を果たし、ここ御神楽にイザ
ナギ、イザナミの二神を祭り国家鎮護の神祭にお神楽を奏し
たとのこと。これが伊佐須美神社の始まりでこの山が御神楽
岳と呼ばれるようになったとのこと。現在この神社は会津高田
に座しているが、その昔御神楽岳から博士山に遷座、さらに明
神ケ岳に遷座、そして欽明21年(560年)現在の場所に落ち着
いたとのこと。











このように聞くと、山も厳かに見えてくるから不思議なものだ。これにあやかって、阿賀町HP

より題名
々への奉納神楽が聞こえる山「御神楽岳」
)を拝借した。


登山口から湯沢の出合までは、広谷川沿いの平坦な道を歩くが、昨夜来の雨で両脇の草は濡れ
ていた。念のためゴアのズボンを穿いたが、下刈りがされておりほとんど濡れることは無かった。
山開きに向けて地元の人が整備してくれたのであろう。ありがたいことである。

ただ、平坦な道とは言っても、途中3回ほどの沢の通過は、切れ落ちた崖や滑りやすい岩で気が
抜けない。細心の注意が必要である。


 湯沢の出合からは岩場の急登が続いていた。その急登を50分ほど登ると、両側が切れ落ちて
ナイフリッジになっている鞍部に出た。馬の背と呼んでいるが、人によっては股摺り岩とも言う
らしい。

このコースの最初のキレットでスリルがある。半分ほどは上を歩いたが、小さく突き出たこぶか
らは馬乗りの形で通過した。なるほど、股摺り岩とは良くつけたものだ。

湯沢の頭までは、気の抜けない岩場が続いている。要所要所には鎖やトラロープは掛けてあった
が必ずしも信頼できるとは思えないような古ぼけたものも有った。


3点支持を心がけ、鎖やロープあるいは木の枝や
草は姿勢を保つ為の補助と心得るのが順当の様で
あった。

とにかく、慎重に慎重に登る必要がある。ただ天
候は晴で、濡れた岩場も乾いてきつつあったが、
下山にここを降りるのかと考えると一抹の不安は
否めなかった。

それとは裏腹に、左側には鋭い山伏尾根の岩壁が
続いており、見事な景観を呈していた。

緊張感のせいか写真もあまり撮らず、高頭(こう
つむり)も気付かぬままに通り過ぎてしまった
が、湯沢の頭に着いた時はとりあえず気持ちも緩
んできた。


ここからは目指す御神楽岳の頂も眼に入ってきたし、登ってきた岩稜を眺めることもできた。
すぐ横には石楠花も咲いていた。まずは一安心と言ったところ。


 程なく、先ほど追い越した単独行の女性が到着した。この方は何回もこのコースを歩いている
方であったが、今日はこのコースを下山するのは恐いので、室谷に降りてタクシーを呼び、相乗
り割り勘で駐車場所までどうかとのことであった。先行する男性の2人連れの方もそう言ってい
たとのことであった。

願っても無い提案であった。即座に同意し、一足先に山頂に向かった。

痩せ尾根を1時間ほどで雨乞峰に着いたが、ここは室谷コースとの分岐点である。


 頂上に着いてみると、狭い頂上は満員盛況の大賑わいであっ
た。
さすがに、山開きの日であった。一段降りたところの少し広く
なっている道端でお昼を食べたが、下山していく人達の大部分
は金山町側から登ってきた人達の様であった。町で仕立てたバ
スで送迎して貰うとのこと。

頂上は、本来なら360度の展望で飯豊連峰や会越の山々が眺
望できるはずであるが、残念ながら今日は川内山塊が朧に見え
る程度であった。景色は、天気の良い次の機会までお預けとした。



 下山は、約束した方々と俄か仕立ての4人連れで室谷登山口の方へ降りて行った。

こちら側は、蝉ガ平コースとは打って変わって、危険な箇所は何も無く、快調に飛ばすことがで
きた。両側にはサンカヨウがきれいに咲いていた。ただ、沢沿いのためか泥んこ道には大いに
閉口した。

最後に沢を渡渉すると間もなく舗装した林道に出た。ここが室谷登山口だ。ここにもお神酒が置
いてあり、まだ沢山残っていた。

無事を祝ってチョコにほんの少し戴いた。厳しい山歩きであったが、満足一杯の御神楽岳で
あった。
  (おわり)